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  第二章 詞藻論

第十節 表出法

第四項 咏嘆法

 文に勢力あらしめんため又は我が情の極めて激切なりしため、語句の間に咏嘆の聲を漏らすことあり、之れを咏嘆法といふ。「必らず凶年ありて人其れ流離せん鳴呼憶々時か命か古より斯くの如し之れを(おさ)むる奈何せん四夷に在り」などいふの類すなはち是れなり。咏嘆法の造句は種々あれど、句頭に噫、鳴呼等の感嘆詞を冠するもの、句尾に「かな」「か」「や」「よ」等の語を附するものなど其の重なるものなるべし。又語句の配置を轉倒せしめて咏嘆の意をあらはすことあるは倒裝法の理に連なれるなり。
 咏嘆法の文例多し。
大梵王宮の深禪定の樂おもへは程なし、況や電光朝露の下界の命に於てをや、忉利天の億千歳只夢の如し、三十九年を過させ給ひけんも僅に一時の間なり、誰か甞めたりし不老不死の藥誰れか保ちたりけん束父西母が命、秦の始皇の驕奢を極め給ひしも終には驪山の塚に埋もれ、漢の武帝の命を惜み給ひけんも空しく杜陵の苔に朽ちにき、生あるものは必す滅す、繹尊未だ栴檀の烟を免れ給はず、樂盡きて悲來たる、天人猶五衰の日にあへりとこそ承れ、されば佛は我心空自罪福無種觀じん無心豐富重寶とて善も悪も空なりと觀ずるが正しく佛の御心に相叶ふ事にて候なり、如何なれば彌陀如來は五劫が間思惟して起こしががき願を發しましますに、如何なる我等なれば億々萬劫が聞生死に臨會して寳の山に入りて手を空しくせん事、怨の中の怨、愚なるが中の口惜しきことにては候はすや云々(『平家物語』)
悲しきかな無常の春の風忽に花の御姿を散らし、痛ましきかなぶんだんの荒き浪玉體を沈め奉る云々(同上)
あらはづかしやさらばとて羽衣をかへし與ふれば、少女は衣を着しつゝ霓裳羽衣の曲をなし天の羽衣風に和し雨にうるほふ花の袖一曲をかなて舞ふとかや東遊の駿河舞、此のときや初なるらん(謠曲『羽衣』)
物語せし末を聞くにさてこそ我が事申し出し、さても〳〵茂右衞門めは并なき美人を盗み、をしからぬ命死んでも果報といへばいかにも〳〵一生のおもひ出といふも、あり云々(西鶴作『五人女』)
今はの時の人知らぬ心の中さへ思ひやりぬ、現の境も千々の思ひを碎き娘の生ひさき其の子の母の行末、いかに覺束なく見果つらん、あゝ悲哉、松本山の僧が身まかりぬる時は此秋我れに誄せらるべしとはよも思ひよるまじ、今我れ辭を作りて彼れを痛む、此の次必我が番にあたらむも又哀なるべし、あゝ悲哉や(森川許六の『去來が〓』)
よそのつらねも我が命も一よぎりなる憂きふしや、憂き身の果ては主親のばちにかゝりし三味線の廿二三の糸きれて、殘る一期もしはしぞやいかに今年のから露も哀れ袂のさみだれに、心は今も皐月闇、木の下闇にどまぐれて、覺えし道も幾度がか同じ所にまひ戻る、跡にたづぬる願立てに神や佛の控へ綱、延はす命と知らばこそあゝ是れ又元の道なるわ、是れも今來た道ぞかし、此の世からさへ踏み迷ふ、六道の辻覺束な、迷ふまいぞや、迷ふなと泣くぞ迷ひの種ならし云々(近松作『心中刄は氷の朔日』)
世界の人のいひけるは、大伴の大納言は龍の玉や取りておはしたる、否さもあらず、御眼二つに李のやうなる玉をぞ添へていましたるといひければ、あな堪へがたといひけるよりぞ、世に合はね事をばあなたへがたとはいひはじめける云々(『竹取物語』)
なつかしやいにしへを忍ぶににほふわが袖、濡れてほすこすの戸に、あわれなれしつばくらめ(箏の歌)
あらはづかしの松蟲の聲や、聲きくたびにおりん戀しや(俗歌)
げに〳〵健氣なる事を仰せ候ふ物かな、所詮何と仰せ候とも一まづ落し申うずるにて候ふや何と申すぞ、又御使の立ちたると申すか、あら笑止や、さて何と仕り候ふべき、げにや何事も報ありける憂き世かな云々(謠曲『仲光』)
 此の他和歌發句の類に咏嘆句法多し。「契りおきしさせもが露を命にてあはれことしの秋もいぬめり」「山の端にくるればみゆる三日月のあなしら〴〵し人のいつはり」「これは〳〵とばかり花の吉野山」など、又は句尾に「かな」といふ嘆詞を附したるもの例へば「冬來ては案山子にとまる烏かな」「梅が香にのつと日の出る山路かな」「負うた子に髪なぶらるゝ暑さかなし「忘らるゝ身をば思はす誓ひてし人の命のをしくもあるかな」「皆人のしの顔にして知らぬかな必す死ぬるならひありとは」等枚擧に遑あらす。
(參照) 咏嘆法は英語のエキスクラメーシヨン(Exclamation)なり。之れに關するベイン氏の分類に曰く「(一)嘆詞の目的が或る激切なる情な表白するにあるもの(下略)。(二)意味ある語を嘆詞として用ふることあり即ち當の感情の原因たる事物なあらはす語句を全文章に組み立てずして用ふるなり(下略)。(三)感情を特標するの嘆調と共に其目的物な指示するの恰好なることあり(下略)。(四)語句を省略してわざと文法上の完全な缺き以て感嘆の結果を収むるもの(下略)。(“English Composition and Rhetoric”――Bain)
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