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  第二章 詞藻論

第七節 譬喩法

第八項 字喩法

 字喩法とは字形に基づきて比喩を立つるの修辭法なり。精しく言へば字形上の關係によりて想念を增殖し、以て其の思想の結體に資せんとするものなり。往時俗間に用ひし草體文字にて伊勢の伊の字を人扁に平といふ字の如く書きなし、勢の字を生の扁に作る習ひありしため之れを分解して「人平かに生まるゝは丸が力なり」と讃み伊勢の大神官は産の事に與かりたまふといふ滑稽の意を附加したるが如き此の例と見るべし。また俚歌に「松といふ字を分析すればきみとほくとの差し向かひ」などいふがありたるも同理なり。
 僞りの文字をわくれば人の爲身の爲ならず戀ならず心なけれど濡衣が、なきつまの名も勝賴に、件ふ人も勝賴と、いふてよし有る簑作が、ちらしくばりて藥賣り、(近松半二等作『本朝二十四孝』)
僞の字につきて字喩を立てたるなり。また假名の排列順序を變更したる字喩法にては
なかきよのとおのねぶりのみなめざめなみのりぶねのおとのよきかな
といふ歌が上より讀むも下より讀むも同義なるの類、または英語にてParliament即ち國會といふ字を二つに割きPartial men即ち黨派的の人といふ語とするの類あり。
支那にて字謎と呼ぶものまた字喩法の一種たり。宋人の作に
頭如刀 尾如鉤 中央横廣 四角六抽 右面負兩刀 左邊屬雙牛
といひて龜といふ字を表したるが如き是れなり。離合體の詩と稱するものには
子山園靜憐齒木 公幹詞清詠崋門 月上風微潚漉甚 斗醒何惜置盈樽(唐の陸龜蒙)
といひて木公の二字に松の字を作り門月の二字に間の字を作り甚斗の二字に斟の字を作り松閒魁といふ三字句を成すものあり。字の順序を轉倒して別の意味をなすものをば廻文體といふ。
春晩落花穣碧草 夜凛低月半枯桐 人隨鴈遠邊城暮 雨映疎簾繡閣室(宋の蘇東坡)
の如きは之れを倒さまに讀むも
 室閣繡簾疎映雨 暮城邊遠鴈隨人 桐枯半月低涼夜 草碧鯨花落晩春
といふ詩をなすの類、見るべし。
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