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  第二章 詞藻論

第七節 譬喩法

第六項 引喩法

 引喩法とは古人の成語または故事を挿みて文を裝飾するの謂なり。而して引喩法の本來は隱喩法とひとしく本義と喩義との別を隱すにあれど.他に直喩法の如く明らさまに引喩法たることを示すものあり。後者は之れを引用法ともいふを得べし。人の隱れて出でざるを「岩戸がくれ」といひ「先づ己れよりせよ」といふべきを「請ふ隗より始めよ」といふが如きは前者なり。「衆口金を鑠かすと古人の金言宜なる哉」などいふは後者なり。
 引喩法の文例下の如し
 引喩法の例は詩歌文章ともに多し。其の淵源につきては、西洋にては聖書、希臘文學等を最とし、經文的引喩、古典的引喩等の分類すら生せり。我が國にては支那の文學に淵源せるもの最も多し。是れ往時のわが學源學風の然らしめし所ならん。また若し引喩法を分類せんとせば、其の顯に引喩せるものと隱に引喩せるものとを分かち、隱に引喩せるものゝ中にても事を取りて語を捨てたるものと、語をも併せ取れるものとを分かつ等のことあり。隱なる引喩と顯なる引喩との例は前に擧げたり。事のみ引けるものと語をも倂せ引けるものとの例を示さんに上にいへる清少納言が「夜をこめて」の歌の如き又は芭蕉が俳句の如き、一は函谷關の故事を引きたるもの、他は「端正容貌若陽春」「槿花一朝榮」等の古句に因めるものにして、而も原文の語句をば些も假用せす。之れに反して「浮世はまことに塞翁が馬なり」などいふときは「塞翁馬」の事柄と語句とを倂せ引けるものとなるべし。