TOPへ
『新美辭學』のトップ
back

  第二章 詞藻論

第七節 譬喩法

第四項 換喩法

 換喩法とは種類の相異相關を主とせる比喩なり。隨伴物を以て本名に換ふるものなり。之れを大別して四類とすべし。即ち第一種、記號と實物との關係に基けるもの。第二種、持主と持物との關係に基けるもの。第三種、原因と結果との關係に基けるもの。第四種、原料と作物との關係に基けるものこれなり。以下例を引きて細説すべし。
 換喩法の第一種は記號と實物との關係に基けるものにして、記號を以て實物を代表せしむるを常とす。例へば「清國僵れぬ」といふべきを「黄龍斃れぬ」といひ書生を靑袗といひ文職の人を長袖といふが如き之れなり。更に之れを逆にして實物を以て記號に換ふるの例はあること罕なり。
 吉田通れば二階から招く、しかもかのこの振袖が(俗歌)
されどもそれは愚痴じやそや、恰好こそは大ぐれなれ、昨日今日の前髪を姉といふても大事ない、きさめが酷や殺したと憎みはわが身一つにて云々(近松作『今宮の心中』)
 振袖といひ前髪といふが如き婦女特有の記號を以て其の婦女子を代表せしむるなり。
 換喩法の第二種、持主と持物との關係に基けるものにても、持主をもて持物に換ふるの例は多けれど、持物を以て持主を代表せしむるは尠し。英、米といひて英人、米人といふの意に聞かせ「敵艦降りぬ」といひて「敵の海軍降りぬ」といふの義を表せしむる等何れも持主を持物に換へたるにて「英米」といひ「敵艦」といへるは持主なり「英米人」といひ「敵の海軍」といへるは其の持物なり。
先づやすらかなりといふ體は誰れもよき事といふべきを、其やまひはよわきに落つべし是はおもふに草庵集などのうはべのうつくしくおかしきをまねびて詠むか、草庵の歌は底に力を入れ、上を穏しくゞいけし物なり、玉葉風雅兩集の如き、風調ことざまに損じたるをためんとて、ことに詞がらをいたはられしなるべし云々(伴嵩溪の『閑田文草』)
「草庵集など」とは「草庵集の歌など」の意なり。「草庵の歌」は「草庵集の歌」または「草庵集作者の歌」の意なり。
 換喩法の第三種、原因と結果との關係に基けるものには結果と以て原因に換ふると原因を以て結果に換ふるとあり。「戰爭せり」といふべきを「彈丸に射貫かれたり」といひ「孟子」「莊子」「近松」「西鶴」などいつれも著者の名をいひて著書の稱とするたぐひは結果に換ふるに原因を以てせるなり。「八犬傳氏」といへば馬琴の事と知れ「古池の翁」といへば芭蕉の事と知らるゝが如きは原因に換ふるに結果を以てせるなの「未來の英雄」「大政黨の卵」などいへるまた結果に因みたるの比喩なりとす。
 換喩法の第四種、原料と作物との關係に基けるものにも原料の名を以て作物に代ふるは多けれど作物の名を原料に冠せしむるは罕なり。例へば毛と筆との關係に就きていはんには,毛は原料なり筆は之れによりて製せられたる作物なり、而して此の原料すなはち毛を以て作物すなはち筆の名に換へ用ふることは毛穎、毛錐など之れあれど倒に毛を稱して筆といふためしは無きの類なり。其の他絹布をお(かいこ)といひ身體を四大(地水火風)といひ「何々の文章」といふべきを「何々の文字」といふの類みな是れなり。
筆のすさみの跡たえず、傳はる家や畫工のほまれ、狩野四郎次郎元信丹靑の器量古今に長じ、心ばへよき男ぶり、親の繪筆の彩色に生まれつきたる美男なり云々(近松作『傾城反魂香』)
人と物語する序には昔の事共を言出して、或はなけき且は治れる御世に生れて干戈の昔をしらす、安くいね靜に起きて嘯き歌ひて明し暮らす事をよろこび且事ありし時にあはすして猛虎も鼠となり寳劒も鉱となることをぞいきどほる云々(太宰春臺の『獨語』)
(參照) 換喩法は英語にてメトニミー(metonymy)といふ。例によりて舊來の著者の之れに關する規則といふものた要旨によりて擧げんに、第一、記號を以て實物に代ふるには其の記號眞によく實物を代表するに足り何人にも直にうなつかるゝものならん々を要す。支那人を辮髪漢といひ洋人な碧眼兒といふれぐひ善く此の條件にかなへるものなり之れに反し若し支那人を筒袖人種などいふものあらば其は此の規則に背けるなり何となれば筒袖の衣服を着する人種は他にも多くありて到底之れた以て支那人特有の記號と見徹す能はざればなり。第二、原因な以て結果に代ふるには原因は主なるもの又直接のものならざるべからず。「夜明け前」といふを「日出でぬ」といふは正當なれど「時經ぬ」又は「大地轉じぬ」などといふは非なるが如き之れなり。第三、原料か以つて作物に換ふるには原料は最も主要部分な占むるものならざるベからず。「些の武器をも帶せず」しといふべきを「寸鐵なし」といふは鐵が通常武器(殊に刀劍)の主なる原料なるが故にて隨うて正しき換喩なりされど武器を作りあぐるには猶他に種々の原料々要すべし此の種々の原料な取り出で一々武器といふ名に換用するが如きことあらば上の規則にたがひて不通のものとなるべし。
TOPへ
『新美辭學』のトップ
次へ