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  第二章 詞藻論

第一節 語彩

消極的語彩――語句の純正――語句の精確――積極的語彩――語趣――音調
 語彩とは言語上の彩色といふ義にして外形的詞藻に屬す。修辞法に想念自からの發展に基づけるものと、言語の適用に基づけるものとあるの理は既にしば〳〵論じたり。こゝに外形的といへるは、其の言語の適用法より生ずる修辭現象を指すものにして、之れに消極的すなはち修辭の最低標準として準備上必要なる現象と、積極的すなはち修辭の最高標準に向かへる經過として存する現象との二段あることも、前に述べたり。即ち消極的語彩とは言語の妥當ならんことを期するの修辭法にして、言語の妥當とは、最もよく其の思想に適應すべき言語を選擇するの謂ひなり。此の揚合にありては、言語は思想の表出を阻礙せざると共に、之れを補足することも無し。たゞ忠實に無難に其の思想のまゝ傳ふるを得れば足る。此に於いてか其の工風は常に消極的となり、作家は如何にして如實に之を表出すべきかといふよりも、如何なる點が如實に表出を妨ぐるかといふ點に注意するの態度に立つに至る。文中或は不通の語句、暖昧の語句のために其意を妨げらるゝが如き恐れはなきか。是等を一々に檢討し除去するは言語の妥當を期する上の最要條件たり。而して消極極的語彩を分かちて語句の純正語句の精確の二項より見るを得べし。
 積極的語彩に至れば、作家の態度一變して、單に其の思想を完全に表出すといふより以上、如何にせば其の思想が最もよく讀者の情を刺戟すべきかといふの工風をなす。此の目的のためには、成し得ん限り言語が思想の變更をも要求するの權あるなり。之れを言語の表情といふ。言語みづからが有する種々の表情を利用するの法なり。而して之に語趣すなはち言語の用例上より來たる趣致に基づくものと、音調すなはち言語の聲音に伴ふの情に基づくものとあること、既に言へるが如し。
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