第七 主として順感の原理に基ける詞姿

 第四十四章 擬態法

一〇四 擬態法とは事物の態度を摸して之れを活現する詞姿である。聲を摸しては「おどろおどろと鳴る神」「ちうと鳴く雀、こうと鳴く鳥」「伐木丁々」「谿水潺々」といひ、目に見ゆる態を摸しては「そろりと參らう」「いそして居る」「はきせよ」「ぐつするな」といひ、肌ざはりを摸しては「すべ」「ぬるぬる」といひ、嗅覺を摸しては「くんこたへる」「ほやりと香ふ」といふ類、皆此の詞姿である。就中聲音は最も多く摸せられ、又最も効力あるを以て、已に擬聲法或は聲喩法といふ語が成り立って居る。擬態法の例、左に。 擬態法は事物の態を活躍させるに最も有効なる詞姿の一つで、其の最も多く用ゐらるゝは日本文だともいはれる。又詞姿の中には、自然、無技巧を標榜する新式文章から斥けられるのも多いが、擬態法は舊式丈章よりも寧ろ多く新式文章に用ゐられるといふ傾きがある。但し此の詞姿には場合によつて、讃の感情を刺戟し過ぎる嫌ひがあり、又文品を輕くする傾きがある故に、謹嚴を主とし、品位を重んする文章には、其の用ゐ方を謹まねばならぬ。 -->