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第五 主として融會の原理に基ける詞姿

 第三十七章 連鎻法

 八五 連鎻法は、蟬聯法、文字鎻又は尻取文句ともいふ。前句の末の語を再び次ぎの句のかしらに置く者、同語を前後に排列して上授け下受くる推移の工合にいはれぬ妙味ある詞姿である。「三界皆佛國、佛國それ衰へむや、十方悉く寳土、寳土何ぞ懷れむや。」「春に育つも花誘ふ、蝶は菜種の味知らず、菜種の蝶は花知らず知られず知らぬ中ならば、浮かれ初めまい、狂ふまいもの味氣なや。」など、皆此の法を用ゐたものである。此の詞姿は順感の原理にも基礎をおいて居る。

其のあるじと住みかと無常を爭ひ去るさま、いはゞ朝顏の露に異ならず、あるは露落ちて花殘れり、殘れりといへども朝日に枯れぬ。あるは花凋みて露なほ消えず、消えずといへども夕をまつことなし。(鴨長明『方丈記』)
「げに山賊のさしもげに、しわふるびとと見ゆるにも心ありける姿かな。 シテ翁「心知らればとても身の、姿に恥ぢぬ花の友に、馴れてさらばまじらむ。 シテ翁まじれやまじれ老人おいびとの、心若木の花の枝、 シテ「老隱るやとかざさむかざしの袖を引きひかれ、このもかのもの陰ごとに、貴賤の花見輿車の、花のながえをかざしつれて、ようぼひさぞらひ、とう〴〵にめぐる盃の天も花にや醉へるらむ、紅うづむ夕霞、かげろふ人の面影、ありと見えつゝ失せにけり。(謠曲「小鹽」)
惣七水楫みさを押取って狂ひ出で、ヤア海賊めら樣子一々見屆けた、死ぬるとも一人死なうかと、そツぽう滅法打ち立つる。うしろへ廻つて市五郎、すきを窺ひ攫みつけば取って投げ、投げられながら足首をしつかと取り、眞逆樣にすでんどう、どうと響く波音、波音に捲りかけ、大勢おほぜいかゝつてだんぼらぼ、ほとりも知れぬ海の中、眞逆樣にうち込んで、サア仕すました、目出度いと笑ふ聲。(巢林子『博多小女郞浪枕』)
その矢張やツぱり犬に違ひないポチが、わたしむかふと……犬でなくなる。それとも私が人間でなくなるのか?……何方どチちだかそれは分からんが、兎に角互の熱情熱愛に、人畜の差別を撥無して、渾然として一如となる
一如となる。だから今でも時々私は犬と一緖になつてこんな事を思ふ、ああまゝになるなら人間のつらの見えぬ處へ行つて飯を食つて生きてたいと。(二葉亭『平凡』)
 八六 大祓詞は、我が最古の文章の一つで、祝詞の中最も莊嚴流麗なるものであるが、其の趣致は一面は連鎻の妙なる點にある。
うこなほれる諸王みこたち諸王おほきみたち諸王おみたち百宮人達等もゝのつかさのひとたちもろ〳〵、聞こえしめせと。」天皇すめら朝廷みかどに仕えまつる、領巾ひれかくる伴男とものをたすきかくる伴男、ゆぎ負ふ伴男、佩劔たちは伴男十伴男を始めて、官々つかさ〳〵に仕へまつどもの、過ち犯しけむ雜々くさ〴〵の罪を、今年ことし六月みなづきつごもりの大祓に、祓ひ給ひ淸め給ふ事を、もろ〳〵聞こしめせと宣る。」
高天の原にかむづまります、「すめら神漏岐かむろぎみこともちて、八百萬やほよろづの神たちを神築かむつどへ集ヘたまひ、神議かむはかり議りたまひて、皇御孫すみらまみことは、豐葦原の水穂の國を、安國やすくにたひらく知ろしめせと、事さしまつりき。」かく依さしまつりし國中にくぬちに、荒ぶる神等かみどもをば神問かむどはしに問ひたまひ、神掃ひに掃きて給ひて、語問こととひし碧根樹木いはねきねたち、草の垣葉かきはをも、こと止めて、天のし磐座いはくら放し、天の八重雲を稜威いつの千別きに千別きて、「天降し依さし奉りき。」かく依さし奉りし四國よも國中くになかと、大倭おほやまと日高見の國日高見の國を安國と定めてまつしたつ磐根に、宮柱太しき立て、高原に、四方よもの千本高知りて、皇御孫の命のみづの御舍みあたら仕てまつりて、天の御蔭みかげ日の御蔭とかくりまして安國とたいらけく知ろしさめむ國中くぬちに、り出でむあめの益人が、過ち犯しけむ雜々くざ〴〵の罪事は、あまつ罪とは、畔放あはだち溝埋みぞうめ樋放ひはなち頻蒔しきまき串刺くしざし生剝いきはぎ逆剝さかはぎ屎戸くそへ許多こゝだくの罪を、天の罪とりわけて、國つ罪とは生膚斷いきはだたちしに膚斷、白人しろびと胡久美こくみおのが母犯せる罪、己が子犯せる罪、母と子と犯せる罪、子と母と犯せる罪、けもの犯せる罪、昆蟲はふむしわざはひ、高つ神のわざはひ、高つ鳥の災い、畜仆けものたふし、蠱物まじものせる罪、許多こゝだくの罪出でむ。」かく出でば、天つみや事以こともて大中臣、天つ金木かなぎを、本うち切り、末うち斷ちて、千座ちくら置座おきくらに置き足らはして、天つ菅會すがそを、本苅り斷ち、末刈り切りて、八針やはりに取り裂きて、天つ祝詞のりとふとごとをかくれ。」かく宣れば、天の神は、あめ磐門いはとを、推しひらきて、あめの八重雲を、「いつの千別きに千別きて、聞こし召さむ、國つ神は、高山の末、短山みじかやまの末にのぼして、高山の雲霧いほり短山みじかやま雲霧いほりをかき別けて、聞こしめさむ。」かく聞こしめしてば、皇御孫の命を朝廷みかどを始めて、あめの下四方の國には、罪といふ罪はあらじと、科戸しなどの風の、天の八重雲を吹き放つ事の如くあした御霧みぎり、夕の御霧を、朝風あさかぜ夕風の、吹き掃ふ事の如く、の大津邊おふつべる、大ぶねを、解き放ち、とも解き放ちて、大海おほうみの原に押し放つことの如く、彼方をちかた繁木しげきもとを、燒鎌やきがね敏鎌とがまて打ち掃ふことの如く、のこる罪は在らじと、祓ひ給ひ淸め給ふ事を、高山の末より、さくながりに、落ちたぎつ速川はやかわの瀨にす、瀨織津姬せおりつひめといふ神、大海の原に持ち出でなむ。」かく持ち出でなば荒鹽あらしほの鹽の八百道やはぢの、八鹽道の鹽の八百會やほあひす、速開都姬はやあきつひめといふ神、持ちかゞ呑みてむ。」かくかゞ呑みてば氣吹戸いぶきどす、氣吹戸主いぶきどぬしといふ神、根の國、底の國に、氣吹いぶ放ちてなむ。」かく失ひてば天皇すめら朝廷みかどに仕へまつる、官官つかさ〳〵どもを始めてあめの下四方よもには、今日けふより始めて、罪といふ罪は在らじと、高天の原に耳振り立て聞く物と、馬牽き立てゝ、今年の六月みなづきつごもりの日の、夕日のくだちにの大祓に、祓ひ給ひ淸め給ふことを、もろ〳〵聞こしめせとる。」四國よくに卜部うらべども大川道おほかはぢに持ち退まかり出でて、 祓ひれと宣る。」
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