第四 主として存餘の原理に基ける詞姿

 第三十二章 設疑法


 七五 設疑法とは容易に下し得べき結論をわざと疑問にして讀に判斷せしむる詞姿、言ひ換ふれば、豫め結論にゆくべき道を拵ひおき、讀をして自分のカでそこに進み入らしむる詞姿をいふ。謂はゆる言はぬは言ふにいやまさるものの一種で、其の面白味は想像の餘地の存する所にある。されば、設疑法に於いてぐる疑問は解の質問にあらずして容易に決し得べき疑問でなければならぬ。例へば、酒の害を列擧して後に、「故に酒を飮むは自暴自棄の愚である。」と斷定するよりは「然らば酒家を稱して智といはれませうか。」と疑つた方が讀むに面白く、奸人賣國の所行を叙して「武士でない」と斷ずるよりは「之れをしも日本武士といふべきか。」と問うた方が、讀の興を惹く類ひである。