第四 主として存餘の原理に基ける詞姿

 第三十章 反言法

其の二 反語法


 七二 諷刺暗誚の爲めにする表裏の言ひ做し方に、顯はに譏つて實は褒むるものと、顯はに褒め稱へて實は譏るものとある。最も有効にして最も多く用ゐらるゝは後で、前は甚だ稀れに用ゐられる。また前は自家を卑下していふ場合に多く用ゐられる。『枕の草子』頭中將が淸少納言の才を稱へる條の、 近松の『生玉心中』慈悲深き親が借財に苦しむ子を助けむとて金の酒を勸める條の の如きは、善意を惡しざまに言ひ做す方の例である。
 顯はに褒めて實は誚る反語の例は、

 武田信玄の臣板垣信形が、或時甲州勢を勵まさうとして諸將を招いだが、手柄の多少によつて席順を定めた所、武田信連、今福善九郎、跡部大炊之介、長阪左衞門等の々は眞田の郞等相木森之助等の下座に着いて大いに面目を失つた。