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第三 主として增義の原理に基ける詞姿

 第二十四章 重義法

 五二 重義法とは一語に二つ以上の意義を兼ね含ましむる詞姿をいふ。例へば「澁かろか知らねど柹の初ちぎり。」が、柹の初もぎと新婚偕老の契りとの二義を含み、「かりつる世はをしからすそむきし雉子も都こひ五位しきときはありけり水札。」が、憂き世を捨てゝは見たが、なほ都の戀しい時があるといふ意と、十種の鳥の名とを含んで居る類ひで、廣い意味でいふ秀句即ち掛詞である。此の詞姿は序詞、枕詞と同じく、新式の文章には餘り用ゐられぬが、昔の文章家の好んで用ゐたもので、「秀句は歌の材木、俳諧の花なり。秀句なくして俳諧せむは、棹なくして船をやり、針なくして魚を釣るが如し。」といはれた位、從つて日本文に特有とはいはれぬまでも、外國文に比べては遙かに多く用ゐられた。思ふに、此の詞姿にはわざとらしき傾きがある故に、今後の散文、特に自然、無技巧を尊ぶ散文には斥けられるであらうが、とにかく國文の一方面を占めて其の一擧兩得的趣味を發揮するに違ひない。重義法は結體、朧化、融會、奇警、順感等の諸原理にも多少の關係はあるが、殆んど增義の原理の上に立つて居る。重義法を大別して添義法、秀句法、雙叙法、語路法、字裝法、類裝法、數裝法、交叙法の八種とする。

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