第三 主として增義の原理に基ける詞姿

 第二十一章 引用法


 四五 引用法は顯はに成語或は古事を引いて文章を飾るもの、詳しくいへば、我が立言を助くべき古事、或は古の格言、諺、詩歌等を引いて我がに重みをつけ、文の容を富まし、趣致を豐かにする裝飾法である。時は平凡事をも神聖化する。同じ言でも古人のとあれば今人の前に君臨する趣があり、先の事蹟は子孫の前に神さびて現はるゝ。是れ文章家の好んで古事、古語を引く所以、又同時代の人の言を容るゝを欲せぬ人も古語の銘の下に畏み恐るゝ所以である。此の詞姿は增義の原理の外、結體、朧化、融會、奇警、順感等の諸原理にも關係がある。
 引用法はもと我が立言を明らかにし我が文章に品格を添へむが爲めに用ゐるものである、故に此の詞姿を用ゐるには、漫りに解の古事古語を引いてはならぬ。學德高からざる小人物の言を引いてはならぬ。