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第一 主として結體の原理に基ける詞姿

 第十四章 換置法

 三七 對照法に似たる詞姿に換置法といふがある。換置法とは文勢を强むる爲め、一たび用ゐた語を直ぐに撤回して他の更に適當な語を置き換ふる詞姿即ち出直し法である。例へば、不敬の行ひがあった敎育家を難じて、「彼れの所爲は不穩當なり、不穩當といはむよりは寧ろ不都合なり否大不敬なり。」といひ、或は露兵は敗走せり、否豫定の退却を實行せり。」といふ類ひで、前の不妥當なる語を其のまゝに据ゑ置きながら、更に適當なる語を、改めて揭ぐる所に味はひある描寫法である。此の詞姿は不穩當なる語と穩當なる語とを並べ揭げて相對せしむる點よりいへば對照法に類し、より穩當なる語に進み行く點よりいへば漸層法に類して居るが、尙ほ妥當不妥當を併せ揭げ、又、より妥當なる語を換へ置く點に於いて獨立の詞姿たるを妨げぬ。換置法は主として結體の原理の上に立ち、尙ほ多少增義、融會、奇警、順感の四原理にも屬して居る。

(曾我の五郎が)ふんちかツて立つたりしは多聞持國增長、いや造り握ゑた仁王に、ちつとも違はざりけり(舞の本「和田酒盛」)
人の家にありたきは梅櫻松楓、それよりは金銀米錢ぞかし。庭山にまさりて庭倉の眺め、四季折々の買ひ置き、是れぞ喜見城の樂みと思ひきはめて、今の都に住みながら四季の橋を東へ渡らす。(西鶴『日本永代藏』)
いやどうも面白い戀愛ラブだんを聽かされ、我等一同感謝の至りに堪へません。さりながらです、僕は岡本君の爲めに其の戀人の死を祝します、祝すといふが不穩當ならば喜びます、ひそかに喜びます、寧ろ喜びます、却って喜びます。若しも其の少女むすめにして死ななんだならです、其の結果の悲慘なる、必ず死の悲慘に增すものが有つたに違ひないと信ずる。(國水田獨步『牛肉と馬鈴薯』)
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