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決まり文句・クリシェ きまりもんく・くりしぇ cliche
――『そんな未来はウソである』1巻47~48ページ(桜場コハル/講談社 少年マガジンコミックス)
江口 あれ?
ミツキちゃんと高山君
いいフンイキかも?」
アカネ せっかく私が
ババ抜き一抜けして
二人にして
やったのに……)
全然ダメ!」
江口 わっ」
アカネ あんな二人をどうやって
くっつければいいだ……)
江口 ??)
アカネ 江口さん
人と人はどうすれば
仲良くなれる?」
江口 え?
一緒にゴハン
食べればいいんだよ!」
同じ物食べて
「うまい」と言う!
それだけで
百の言葉を交わすより
理解しあえることも
あるのかもね!?」
アカネ そ…… そう?」
江口 ことわざにも
あるでしょ?
同じ釜メシ
食った仲」
と!」
アカネ 「同じ釜のメシ
でしょ?
それってことわざ
だったっけ?」
――『そんな未来はウソである』1巻47~48ページ
(桜場コハル/講談社 少年マガジンコミックス)


定義重要度

決まり文句・クリシェとは、よく知られている一般的な言いまわしを使うものです。

効果

効果1短いことばで伝えることができる——簡潔

「決まり文句・クリシェ」は、短い言いまわしになっています。このため、ことばを簡潔にしながら相手に考えを示すことができます。
:簡潔、手短、簡約、短い、イディオム

効果2少なくとも必要なことを、伝えることができる——必要最小限

「決まり文句・クリシェ」は、多くのばあい使われる場面や状況が決まっています。ですので、今の状況に合ったことを無難に伝えるのに役立ちます。
:慣れる、言い慣れる、呼び慣れる

効果3凝らないで使うことができる——固定的

ヒトというのは、自分の考えを相手に伝えるために、いろいろ苦労します。どうやったら、もっとよく相手に思いをあらわすことができるか、考えはじめたらキリがありません。ですが「決まり文句・クリシェ」は、もともとカタマリとして一体となっている表現です。そして、かたまっている以上は「表現に悩む」ことができません。そういったわけで、細工をすることなく相手にことばを発信することができます。
:固定的、定まる

効果4共通の考えかたを持ちやすい――共感

ある1つの「決まり文句・クリシェ」を使う。そうすると、伝えようとする側が考えているものごとを、よりカンタンに分かってもらうことができます。これは「決まり文句・クリシェ」が、共通した考えかたに裏づけされた言いまわしだからです。
:膾炙、広まる、行きわたる、普及、共通理解、伝達性、伝わる、伝える、コミュニケーション

使い方

使い方1ようするに「決まり文句・クリシェ」を使えばいい

「決まり文句・クリシェ」を使った文をつくるのには、それほど苦労しないと思います。たしかに外国人の方が日本語を学ぶときには、「ことばの慣習」にかかわる「決まり文句・クリシェ」は苦労する分野だともいわれます。ですが、ふだん使っているのが日本語だという方には、とりたたて問題があるとは思いません。

使い方1多くのばあい、会話のなかで使われる

すぐ下の《使用上の注意》にも書きましたが、文学作品で「決まり文句・クリシェ」を使うのは避けたほうが無難です。それに比べて会話の中で使うのは、それほど問題ではありません。

注意

注意1新鮮さが失われて、独創性のない新鮮さの欠けるものになっている

「決まり文句・クリシェ」は、長い時間にわたって受け継がれてきたものです。そのため、どんな人にもすぐに意味を理解することのできる言いまわしです。そういったこともあって「決まり文句・クリシェ」は、月並みな表現になります。
:月並み、ありふれた、陳腐、古くさい、お決まり、独創性のない、決まりきった、新鮮味に欠ける、安易、安直

注意2詩や文学作品には、使わないほうがいい


詩などの文学作品では、新鮮味のある表現力に富んだものにすることが大切です。けれども「決まり文句・クリシェ」は、型どおりの古くさい表現です。なので「決まり文句・クリシェ」は、文学作品を書いたりするときには、避けたほうが無難でしょう。

注意3マイナスの印象を受けやすい

「決まり文句・クリシェ」は月並みです。そのことから、心のこもっていない言いまわしをしていると受けとられ、マイナスの印象を与えてしまうこともあります。
:心のこもっていない、うわの空、うつろ、ぼうっと、ぼんやり、散漫



例文を見る例文を見る(末尾)

引用した画像は、『そんな未来はウソである』1巻から。

アカネは、困っている。その原因は、ミツキという女の子の特殊な能力にあった。

そのミツキが持つ特殊能力というのは、人の未来が(ちょっと)見えてしまうこと。つまりミツキは人の目を見ると、その人の未来が分かってしまう。ここに原因があった。

高校に入ったときに、たまたま席がとなりどうしだったミツキとアカネ。たまたまアカネが手鏡を見せたときにミツキは、鏡にうつった自分自身の目を見てしまう。その結果ミツキは、自分自身の未来を知ることになった。

ミツキが見た(自分自身の)未来。それは、「高山君と結婚してた」というもの(27ページ)。

自分の人生の、しかも結婚というのはかなり大きな意味がある。…ただミツキは、その結果に興味なし。

逆にアカネのほうが。
「私が鏡を見せたせいで
二人の未来が狂ったわけか…」(30ページ)
と、罪悪感をもってしまう。なのでアカネは、ミツキと高山を、なんとかくっつけようと考えます。

そういったわけでアカネは、たまたま近くにいた江口さんにきいてみる。人と人は、どうすれば仲良くなれるか。

江口の答えが、「ことわざ」(?)を使ったフレーズとなります。つまり、
同じ釜メシを
食った仲」
というものです。これは、とりあえず間違いです。
同じ釜のメシ
(を食った仲)」
が正解です。

さて。
この「同じ釜のメシを食った仲」という言いまわし。これは、「ことわざ」だといえるでしょうか。

私(サイト作成者)は、「ことわざ」ではないと感じます。アカネも、「それってことわざだっけ?」と言っていますし。

「ことわざ」ではないのなら、いったい何なのか。個人的には、「決まり文句・クリシェ」だと考えています。

そういったわけで、同じ釜のメシ(を食った仲)」というのは、「決まり文句・クリシェ」に分類されることになりました。



レトリックを深く知る

深く知る1「成句・イディオム」というレトリックの特徴
「決まり文句・クリシェ」は、「成句・イディオム」というレトリック用語のうちの1つです。なので、「成句・イディオム」を説明した文が、「決まり文句・クリシェ」にも当てはまることになります。

ですので、「成句・イディオム」のページにある解説を見てみることにします。

   *

「成句・イディオム」というレトリック用語。この用語について、このサイトでは「2つ以上の単語が、ひとかたまりとして扱われるもの」と定義しました。

この定義には、つぎの3つのポイントがあります。


2つ以上の単語が結びつきで成りたつ

ふつうの単語というのは、1つ1つが独立して扱われます。けれども「成句・イディオム」は、違います。「成句・イディオム」のばあい、2つ以上の単語をセットにして扱うことになります。

たとえば、「腰を折る」というもの。これは、「腰」+「を」+「折る」という構造になっています。ですが、ふつう「腰を折る」という組み合わせで使います。1つ1つの単語がどういう意味を持っているかということは、無視されます。このようなものは、2つ以上の単語が結びついているので「成句・イディオム」ということができます。

単語どうしを切り離せない

上に書いたこと。それを逆の見かたをすると、「セットになってしまったので、もともとあった1つ1つの単語に戻すことはできない」ということでもあります。

例文としてあげた、「同じ釜の飯を食う」というもの。これも、1つのセットになっています。ですので、動かしたり入れ替えたりはできません。

「同じ釜のメシを食う」は、「決まり文句」です。けれども「同じ釜メシを食う」は、たんなる(「決まり文句」ではない)文にすぎません。「」ということば1つがあるだけで、もっている意味がまったく違うものになってしまうのです。これが、「単語どうしを切り離せない」ということです。

もともとあった単語からは、考えられない意味を持つ

このページの最初に引用した、「同じ釜のメシを食う」というフレーズ。こういった「決まり文句」のばあい、かりに、「決まり文句」を単語1つ1つに分解してみると。それは、ことばの意味が成りたたなくなります。

くわしくいえば、
パターン1 もしも単語どうしを離してみると、ふつうではあり得ない意味になる
  (例) 「手を焼く」を分けてみると、「手」が「焼ける」ということになってしまう。

パターン1 もしも単語どうしを離してみると、意味が180度変わってしまう
(例) 「負けず嫌い」は、「負ける」+「ず(否定)」+「嫌い」となる。そのため「負けないのがキライ」だということを言っていることになる。
パターン1 単語どうしを離すと、意味不明になる。
(例) 「目をむく」を言いまわしは、それぞれ離してみると「目」が「剥ける」ということになる。だけれども、「目」が「剥ける」という状態は「意味不明」としかいいようがない。
のどれかになります。

「同じ釜のメシを食う」のばあいは、パターン1に当てはまります。

深く知る2「クリシェ」に似た意味を持ったレトリック用語
「決まり文句・クリシェ」に似た意味を持ったレトリック用語は、たくさんあります。それは言いかえれば、「決まり文句・クリシェ」と同じようなレトリック用語の数が、多いということです。

では、ナゼ「レトリック用語がたくさんあるのか」。その理由は、「だれにでも分かるような、ハッキリした境界線を引くことができない」というところにあります。厳密なれラインを引くのが、あまりうまくいかない。うまくいかないので、いろんな人が境界線の引き方にチャレンジをした。結果、ぜんぜん統一性のないレトリック用語だけが、どんどんつくられていった。…と、そういったことです。

そこで、このサイトでは実験として。
3つの大きなパターンに分けることを提案してみます。それをまとめたのが、下に書いた表です。

〈「ことわざ」グループ〉 〈「格言」グループ〉 〈「慣用句」グループ〉
あてはまる
レトリック用語
ことわざ(adage)
寓言(parable)
寓話(fable)
格言(maxim)
金言(gnome)
箴言(proverb)
警句(aphorism)
故事成語(-)
慣用句(collocation)
あいさつことば(-)
決まり文句(cliche)
話し言葉として使いやすいか?
本来のモノとは関係ないことを引きあいに出しているか?
古くから伝わっている言いかたか?
具体的な例を示しているか?
起源をたどることができるか? どちらもある
教訓のような行動の基準となるか?
何か主張したいときに根拠となるか?
決まり文句は長いものか?
諷刺や皮肉をもっているか?
の記号は、サイト作成者がもっているイメージで勝手につけました)


深く知る
3「決まり文句・クリシェ」に関連するレトリック用語

「パロディー」と「決まり文句・クリシェ」との関係
パロディー」というのは、もとの文にある言いまわしをまねて、違った意味を持った別の文を作りだす。そういうものです。

「決まり文句」として使われる言いまわしは、多くの人に知られているものです。そのため「パロディー」を作るのには、ピッタリなのです。

「死んだ隠喩」と「決まり文句・クリシェ」との関連
「決まり文句・クリシェ」は、決まった言いまわしをしていることが「分かる」レトリックです。

これに対して「死んだ隠喩」は、決まった言いまわしをしていることにさえ気がつきません。

この「死んだ隠喩」の例としては、「机の脚」という表現が用いられます。もともと「脚」は人間のもので、それを家具である「机」のたとえとして使った。はじめ「比喩」のはずだったのだけれども、その「机の脚」という表現が何度も使われていくうちに、だんだんと、それが「比喩」と気がつくことさえ気がつかなくなる。…これが「死んだ隠喩」です。

ほかには「空港」というのも、「死んだ隠喩」の例として使われます。たしかに飛行機は、「港」には着陸しません。だけれども、飛行機にだって着陸する場所がある。そこで船にとっての「港」と同じように、「飛行機」が着陸する場所を「空の港」、つまり「空港」と名づけた。

いわれてみれば、気がつく。けれども、あまりに人口に膾炙しているので、なかなか気づきにくい。こういったものが「死んだ隠喩」です。

これに対して「決まり文句・クリシェ」のばあい。こちらは、ほとんどの人が「特別な表現」だと気がつく。例えば、「うれしい悲鳴」とか「黒山の人だかり」とか。



レトリックの呼び方

呼び方5 決まり文句
呼び方4 クリシェ
呼び方2 常套句・常套語句
呼び方1 常套表現



関連レトリック

成句・イディオムことわざ寓言、寓話、格言、金言、箴言警句、故事成語、慣用句、あいさつことば

参考資料

●『比喩の研究―言語と文学の接点―』(オーエン・トマス[著]、田中春美・高木道信[共訳]/英潮社)

「決まり文句」について、過不足のない説明があります。また、「決まり文句」と「死んだ隠喩」との違いについても、くわしく書かれています。
●『エッセイ脳――800字から始まる文章読本』(岸本葉子/中央公論新社)
「常套句(=決まり文句)」が、エッセイというジャンルでどのように使われるか。そういったことを中心に解説がなされています。エッセイでは、あえて「常套句(=決まり文句)」が用いられることもあるとのことです。



余談

余談1「釜メシ」を、レトリック用語で説明してみる

江口は、「釜のメシ」ではなく「釜メシ」と言っています。見るからに、まちがっています。

こういった見るからに間違った表現を、もしレトリック用語で説明するとする。そのばあいには、「マラプロピズム・誤用語法」あたりが、当てはまるのではないかと思います。


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