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字装法 じそうほう metagraph


『ガンパレード・マーチ』1巻64ページ(さなづらひろゆき・SCE/メディアワークス 電撃コミックス)
  • ののみ「 おにーちゃんは
  • ぶーたとおはなし できるんだ-
  • すごいね-
  • 速水「へへへ… まあね…
  • 『はやみ』でいいよ
  • ののみちゃん 同級生なんだから」
  • ののみ「 じゃあねぇ- じゃあ-
  • 『はやみあつし』だからぁ-
  • あっちゃん! で いーい?
  • 速水「うん」
  • ふたり「えへへへへ-」
  • (ほんわか-)
-『ガンパレード・マーチ』1巻64ページ(さなづらひろゆき・SCE/メディアワークス 電撃コミックス)
  • 定義重要度2
  • 字装法 は、ふつうの違った書き方をするというレトリックです。たとえば、ふつうならば漢字で書くところをワザと「ひらがな」とか「カタカナ」で書くものが、この「字装法」にあたります。

  • 効果
  • 効果1 指し示すのものニュアンスを変える
  • 表記を変えることよって、その使っている言葉づかいに違いが生まれます。そのため、指し示す対象のニュアンスを変えさせる効果を出すことができます。
  • キーワード:ニュアンス、雰囲気、色合い、陰翳

  • 効果2 軽薄であることを示したり、諷刺の効果がある
  • その他の効果について、くわしくは下にある深く知る2のところで書きました。そちらをご覧ください。
  • キーワード:軽薄、上滑り、軽はずみ、軽々、軽薄、諷刺、諷する、当てこすり、当てこする、など

  • 使い方
  • 使い方1 「あて字」などを使う
  • 「字装法」は、文字を操作することによって、表記を変えるレトリックです。ふつう漢字で書くところをカタカナで書く、といったことが「字装法」にあたります。
  • キーワード:あて字

  • 注意
  • 注意1 行きすぎたカタカナ語の使用
  • 行きすぎたカタカナ語は、いつでも批判されています。誰に対して伝えるのか。何の目的で使おうとしているのか。そういったことを無視すると、とたんに攻撃されてしまうのです。
  • キーワード:批判、評する、批評、非難、とがめる、とがめだつ、追及、問いつめる、なじる、攻撃、非難

  • 例文を見る)
  • 主人公の速水厚志。

    そして、その速水厚志と「ののみ」とが会話をしているシーンです。このシーンそれ自体は物語の進行とはあまり関係がないのですが、「字装法」が見られたので、引用しました。

    速水の話しているセリフのほうは、ふつう使うような漢字が何の問題もなく用いられています。たとえば「同級生」という言葉は、ちゃんと漢字で書かれています。

    しかし、「ののみ」の話しているセリフのほうは、そのようにはなっていません。「ひらがな」だけが使われていて、漢字は一つも使われていません。ふつうならば漢字で表記するようなセリフが「ひらがな」で書かれています。この部分が「字装法」にあたります。

    引用した部分の続きにも、「ののみ」が話しているふき出しは、ずっと「ひらがな」が使われています。引用した64ページ以降をあげておくと、

    • 「…それ まいちゃんに
    • ぶたれたんでしょ? いたそーだね…」

    • 「でもまいちゃん
    • あっちゃんのこときっとすきなのよ」

    • 「じゃなきゃまいちゃん
    • あっちゃんのくび ねじきっちゃってるの」


    と、舞がシャワーを浴びているのを速水がのぞいていた、それがバレて殴られたことについて話題にした後、

    • 「あっちゃんきてから
    • まいちゃんあかるくなったの」

    • 「まえはおうちで ひとのことなんて
    • おはなししなかったのよ」


    といった感じで、舞について語っていきます。

    (「舞」って何者だ? という方は、「 濫喩 」のページで「舞」が自己紹介しています。そちらをご覧ください)

    以下の引用は省略しますが、ずっとこんな調子で「ひらがな」だけのセリフが続いています。


  • レトリックを深く知る
  • 深く知る1 「字装法」の色々な効果
  • 「幼さ」のほかに、この「字装法」を用いることによる効果は様々です。いま思いつくだけでも、

    • セリフを軽薄にするため
    • 外国語を話しているような雰囲気を出すため
    • または外国人が話しているような雰囲気を出すため(日本語を話していても)
    • ロボットや機械が人間の言葉を話している感じを出すため
    • その言葉がストーリーの上で重要なので注目させるため
    • 難しい漢字を使わないようにするため
    • 超自然的な存在が話したりお告げをしたりする時に、神秘性を出すため
    • 強い心理描写をしていることを表すため
    • 恐怖心をあおるような文章にするため
    • 厳格な感じを出すため
    • 諷刺のため
    • 幼さを出すため


    など、いくつも例をあげることができます。ちなみに、このページの最初にあげた引用は、「幼さを出すため」にあたります。

    そのなかで、今回はとくに、

    • 難しい漢字を使わないようにするため
    • 強い心理描写をしていることを表すため


    の2つに注目してみます。


  • 深く知る2 「難しい漢字を避ける」ための「字装法」
  •  

  • 深く知るa 難しい漢字を使わないようにする「字装法」
  • まず、「難しい漢字を使わないようにするため」から見てみましょう。

    これは特に、少年マンガよりも少女マンガのほうが、多く見かけます。漢字を使うのを避けて、かわりにカタカナにする傾向が強く出ています。少女マンガでは、どのコミックでもページを開けばその中に1個や2個は見つけることができるほどです。

    このサイトで引用させていただいているコミックのなかで例をあげれば、たとえば「 疑惑法 」の会話を見てみて下さい。「ニブい」とか「ホレてんだ」とか書いてあります。「鈍い」とか「惚れてんだ」とかいう漢字を避けて、カタカナにしているものと思われます。

    この点について、『ありえない日本語(ちくま新書 524)』(秋月高太郎/筑摩書房)は、つぎのように述べています。

    まず彼は、「特殊カタカナ語」という言葉を「慣例的には、漢字またはひらがなで表記されるべきであるにもかかわらず、カタカナで表記されている語」を意味すると定義します。そしてその上で、次のように論述しています。
    • なぜ、少女マンガの登場人物のセリフには、特殊カタカナ語が頻出するのであろうか。その一つに、少女マンガ雑誌の対象年齢に基づく理由が考えられる。
    •   —(中略)—
    • 作者や編集者は、彼女たちが読めないような漢字の使用を心掛けるにちがいない。
    •   —(中略)—
    • 読者には、小学校低学年の女子が含まれると考えられる以上、登場人物のセリフに漢字を使わないようにすることは十分考えられることである。 (170〜171ページ)


    これは、私の言う「難しい漢字を使わないようにするため」に当てはまると言えます。

  • 深く知るb 「字装法」がもつ、それ以上の効果
  • ですが、秋月氏は「この理由は、特殊カタカナ語を使用することの、部分的な説明にはなっても、全体的な説明にはならない」(171ページ)と続けています。
    「ソレ」や「オイシー」などのように、慣例的にはひらがなで表記されるものを、カタカナで表記したものもあるからである。 (171ページ)
    とした上で、秋月氏は、
    特殊カタカナ語を使用する理由は、漢字やひらがなを用いることによって喚起されるイメージを
    避けたいという動機に支えられていると考えられる。 (173ページ)


    と結論づけています。つまり、「漢字」から出てくる「男性的なイメージ」が喚起されたり、もしくは、「ひらがな」から出てくる「女性的なイメージ」が喚起されるのを避けるために、第三の文字である「カタカナ」を使っていると述べています。

    十分に理由のある意見だと思います。

    なお、秋月氏の運営しているサイトである

    サブカルチャー言語学」というサイトの、「サブカルチャー言語学試論」のページ(http://www.ifnet.or.jp/~akizuki/) by秋月高太郎


    も、『ありえない日本語』の本と同じように、カタカナ語を理解する上で参考になると思います。

    もっとも。
    例えば種村有菜さんが描くコミックのように、あまり「特殊カタカナ語」が見当たらないものも存在するのも確かです。「りぼん」で連載しているのだから、当然「特殊カタカナ語」が出てきていいはずです。それなのに、それほど多くはないといえます。

  • 深く知るc 「強い心理描写をする」ための「字装法」
  • 『くすり指(エンゲージ)の嘘』27ページ(かわちゆかり/講談社 コミックスデザート)
    • がんばって…!! ふたりとも
    • ダイジョウブ ガマンスルコトハ
    • ナレテルカラ——


    たとえば次のシーンは、『くすり指(エンゲージ)の嘘』から。

    心の中で好きだと思っていた家庭教師が、姉とキスをしているのを目撃した場面。「1か月前からつきあっているの」と言われる。それに対して、このように心理描写をしています。

    口に出している言葉は「がんばって…!!ふたりとも」というものです。
    しかし、本心のほう「ダイジョウブ ガマンスルコトハナレテルカラ——」と描写されています(不自然に「カタカナ」で書かれています)。

    このような、つらい状況に置かれた時などに、強い心理の描写をする必要がある。その場合に、心理描写を「カタカナ」で書くという例があります。

    画像は出しませんが、『フルーツバスケット』(高屋奈月/白泉社 花とゆめCOMICS)や『とらわれの身の上』(樋野まつり/白泉社 花とゆめCOMICS)などにも、このような強い心理の描写のために「カタカナ」で表記するというものが散見されます。

    また、少女漫画ばかりでなく、『最遊記』(峰倉かずや/エニックス ガンガンファンタジーコミック)にも見られます。
    このように、ごく普通に、いろいろな漫画で使われています。

    私が知っている限りで、一つの漫画の中で最も多く使われている例は、『お天気予報』(槇村さとる/集英社 ヤングユーコミックス)に収録されている、短編「お天気予報」です。

    • 朝 目ザメタ時  今 季節ハイツナノカ
    • 暑イノカ 寒イノカ
    • ワカラナク ナルトキガ
    • アル…………


    と書いてある9ページから始まって、言葉で話しているのではなく心で思っていることについては、すべて「漢字」と「カタカナ」で書かれています。この「漢字」&「カタカナ」が使われていないページを探すほうが困難です。

  • 深く知るd 結論
  • いままで、いろいろな「字装法」のタイプをあげてみました。このようなものは、従来からあるレトリックでは「字装法」ということになるのでしょう。「字装法」の定義からいっても、その枠内に入るものといえます。

    しかし私は、上で引用したようなものについては、独立して考えたほうが良いのではないかと考えています。

    レトリックというものは、西洋から伝来した学問です。西洋では、アルファベットだけの1種類しか表記する方法がありません(強いていえば大文字と小文字の違いがあるくらいです)。

    それに対して日本語には表記する方法が「ひらがな」「カタカナ」「漢字」というように、いくつも用意されています。そのため、「表記する方法を変える」ということが、簡単に行われることになります。

    そこに、「レトリックを分類する上でのスキマ」ができてしまっている。私はそのように考えます。

    誰か、このスキマを埋める新しいレトリックの分類を作ってみようという人はいないでしょうか?

    私は、レトリックについてド素人です

    なので、「もっと権威と知識のある人に考えてもらえればいいな」、と思っているわけです。

    …と、このように書いている文の中にも、「スキマ」「ド素人」という感じで、気軽に「字装法」を使っている。それが、今まで書いてきたことの「証拠」の1つといえるでしょう(辞書ならば、「隙間」「ど素人」を書くべき言葉です)。

  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 字装法
  • 呼び方3
  • 書記法変換
  • 呼び方2
  • 特殊カタカナ語

  • 参考資料
  • ● 『日本語の文体・レトリック辞典』(中村明/東京堂出版)
  • 「字装法」について、かなりくわしく書いてあります。くわしく「字装法」を知るには最適です。

  • ● 『文章読本 改版(中公文庫 た30−28)』(谷崎潤一郎/中央公論社)
  • そんなに細かいことが書いてある、というわけではありません。ですが、小説家が「字装法」書いているものとして、参考となります。ただし、「字装法」という単語を使っているわけではありません。