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隠語 いんご argot
——『ハッスルで行こう』1巻104〜105ページ(なかじ有紀/白泉社 花とゆめCOMICS)
夏己 じゃあ
このフレッシュヘビー
兄貴から
使って下さい
——ここ2コマとばします——
海里 あ…
兄貴!?」
(どしぇー)
海里 き…兄弟でも
無いのにぃ?
そう呼ぶぅ?
変じゃねーか
それって
それって〜〜)
(あとずさり)
藤倉 ははん)
藤倉 馬鹿ね
食材の“古い”方を
“兄貴”って呼ぶの!
今のは
“フレッシュヘビー
製造年月日 早いのから
使って下さい”って
意味よ」
(ごにょごにょ)
海里 なーる
お客様に“古い”って
聞こえ悪いもんな)
——『ハッスルで行こう』1巻104〜105ページ
(なかじ有紀/白泉社 花とゆめCOMICS)


定義重要度

隠語は、仲間うちだけので通用する言葉を使うレトリックです。言いかえれば、ある特定の集団に属している人にだけには通じるけれども、部外者には通じない言葉のことです。
「雪」で「粉末コカイン」をあらわしたりするのが、この「隠語」にあたります。「言ったりする場合が、この「隠語」にあたります(これは『レトリック小辞典』(同学社)が挙げている例ですが、犯罪のにおいがする例文だなあ)。


効果

効果1その言葉づかいをしている人が、特殊な集団に属していることを示す

その言葉づかいをしている人が、特殊な集団に属していることを示します。そのため、同じ仲間どうしのつながりがあるということを確かめる、という効果があります。
:特殊、特別、仲間、仲間うち、同類、連帯、共鳴、結束、所属
効果2身の危険が及ぶような集団のばあい、恐れをなす

特殊な集団というのが反社会的なもので、身に危険がおよぶタイプのばあい。一般の人は、恐れをなすことになります。
:反社会的、危険、恐れをなす、害をおよぼす
効果3反社会的な集団が持っている情報を、一般の人に知られないようにする

逆に、反社会的な集団からみると。反社会的な集団が持っている情報を、一般の人に知られないようにするという効果もあります。秘密を守る必要がある、ということです。
:秘密、秘密保持、隠す、守秘、秘匿、合いことば、隠微、閉鎖社会
効果4反社会的でなくても、秘密保持が必要なときに行う

多くのばあい、「隠語」は反社会的な集団が用います。ですが医者のように、たんに患者に知られたくないと理由で使うときにもあります。
:知られたくない

使い方
使い方1「さかさ言葉」(後ろから前に読む)使う

言葉を、後ろから前に向かって発音すると元の意味が分かる。これを「さかさことば」といいます。(例:「ドヤ」は「宿」のことを指している)
使い方2「省略」(ことばの一部を省く)を使う

語頭音消失」や「語尾音消失」などを使って、ことばの一部を省略するもの。(例:「サツ」は「警察」のこと)
使い方3「外国語」を使う

外国語を使って「隠語」を作るもの。これは、あまりメジャーな言語や単語は不向きです。
使い方4「字喩」を使う

漢字の形をもとにした、謎解き。これを「字喩」といいます。これを使って作る「隠語」もあります。(「ロハ」は「只」のこと)
使い方5「提喩」や「失形象法」を使う

提喩」や「失形象法」。このうち「提喩」は、その物の部分で全体を、あるいは全体で一部を示すものです。また「失形象法」は、それが極端になったものです。こういったぽものを使うこともできます。(「話がピーマン」は「話の中身がからっぽ」のこと)

注意

注意1一般に人に悪いイメージをもたせる

「隠語」は多くのばあい、一般の人に悪いイメージをもたせることになります。ですので、時と場合によっては、ひかえることが必要となります。ただ「隠語」によって悪いイメージを持ってもらうことが求められる、とったこともあります。そのばあいには、逆に使ったほうが効果的だということもありえます。
注意2一般の人には、注釈などの説明が必要

小説を書くばあいなど、「隠語」を使うとき。そのときには読み手の理解を妨げないように、注釈などが必要です。「隠語」がもっているイメージをくずさない程度に、それとなく読者に伝えることが重要です。



例文を見るその1例文を見る(末尾)

引用は『ハッスルで行こう』1巻から。

主人公は、「久保海里」

彼は、コック見習いとして「ピッコロ」というイタリア料理店で仕事を始める。そこで出会った言葉が
兄貴から
使って下さい
というもの。夏己先輩が篤郎先輩に向かって言ったのが、この言葉。
変な誤解をしてしまった海里は、あとずさりしています。

でも親切な藤倉が「製造年月日が古いものを“兄貴”と呼ぶの」と教えてくれました。そういうわけで、変な誤解は解けました。
しかし、ふつうは“兄貴”という言葉を“古いもの”という意味では使いません。料理店だから、お客さんに悪いイメージを与えないように、“古い”という言葉を使うのを避けて“兄貴”と言っているわけです。海里も、それに気づいて納得しています。



例文を見るその2例文を見る(末尾)

『ごくせん』(森本梢子/集英社 YOU COMICS)というマンガがあります。

任侠集団「黒田組」の四代目として生まれ育った山口久美子(ヤンクミ)が、学校の先生として赴任する。その赴任先は、
“絶滅寸前の「つっぱり高校生」が まだ のし歩いている”
(1巻10ページ)
という男子高校。

まあそれはともかく、任侠集団の中で生まれ育ったのが、山口久美子こと「ヤンクミ」。なので、この本の中には「任侠集団」に特有の言葉づかいが、あちこちで見つかる。
江口先生 今日も警察に
行ってきたんです」
山口先生こと「ヤンクミ」 ふーむ
かいめん
行きなすってきたんですね」
(1巻46ページ)

————————————————————————
江口先生 しかし
関口がやられたとなると
仲間割れか……
よその高校か……」
山口先生こと「ヤンクミ」 どっちにしろ そりゃ
カタギの仕事
ですね」
(1巻47ページ)

————————————————————————
警官
ピリピリピリピリ)←笛の音
こらーっ
そこで何やってるっ」
山口先生こと「ヤンクミ」 サツだっっ
サツだっ
わんわんだよ

ちっくしょうっっ」
(1巻98ページ)

————————————————————————
山口先生こと「ヤンクミ」 天海のおじさん
何か あったんですか?」
天海組長 ——実は
うちのシマ
このところ揉めててな
助っ人を頼みに
来たんじゃが……」
(1巻111ページ)
とまあ、1巻だけでも相当な数がありました。「隠語」だらけです。

ただ、「ヤンクミ」の使っている言葉は、別に部外者に知られることを避けているわけではありません。その点を重視すると、「隠語」というよりは「通語」ということになると思われます。

この「通語」というのは、仲間のあいだだけで使うという点は「隠語」と同じです。けれども、この「通語」のほうは、別に仲間以外の人に知られても問題ない。その点が「隠語」との違いとなります。



レトリックを深く知る

深く知る1「隠語」の3分類

「隠語」は、次の3つに分けることができます。
1. 仲間以外の人には、何をいっているのかわからないようにするために作られたことば
(暴力団などの犯罪組織といった犯罪的なことばが多い)
→せまい意味での「隠語(argot)」
2. 仕事や職業などで使われるもので、その仕事と関係のない人には、何のことかわからないことば
(医者などのように、その仕事に特有のものなどに対することばに多い)
→せまい意味での「専門語・通言(jargon)」
3. 若者が使って楽しんでいるもので、若者以外には通じにくいことば
(若者が、仲間であることをお互いに認め合うために使うことばが多い)
→せまい意味での「俗語・スラング(slang)」
これが、その3つです。

この3つの分類については、『生まれることば死ぬことば』(湯浅茂雄/アリス館)を参考にしました。

例文で出てきた「兄貴から使ってください」はどれに当たるかというと。上にあげた「1.〜3.」の中では、「1.」もしくは「2.」にあたります。

例文のものは「仲間うちだけで通用するようなことば」ですが、その仲間というのが、「仕事や職業などで使われている」ものです。ですので、「1.」と「2.」が両方ともあてまはるものといえます。

深く知る2「隠語」と「忌詞」との関係

歴史的に見ると。この「隠語」は、もともとは「忌詞」から出てきたものといえます。つまり、宗教的ないしは呪術的な観点に立って、それが尊いものだったり、逆に汚らわしいものであったりした場合に、それを直接に言うのを避けた。それが「忌詞」です。

ですが。
時代とともに、「隠語」は「忌詞」ばかりを指すものではなくなります。例えば盗賊仲間の中だけで通じるような言葉が出てきます。これが「隠語」にあたります。

深く知る3「隠語」と「社会方言」との関係

この「隠語」は、一部の社会に属している人にだけ通用するという意味で、「方言」のひとつだということもできます(方言学の用語で言えば、「社会方言」ということになります)。

くわしくは、「方言」のページをご参照ください。

深く知る4「隠語」を作ること
「隠語」の作り方は、「新造語法」と強く関連します。また、「隠語」と「新造語法」には重なるものもあります。

というのは、「新造語法」で作られる「新語」は、もともと「隠語」として一部の人だけが使っていた言葉だった。けれども、その言葉の意味を次第にみんなが知るようになり、「新語」になる。そういう流れになることが多いからです。

たとえば「インチキ」というのは、もともと賭博仲間だけの「隠語」でした。ですが、昭和初期に一般に広まり「新語」となり、現在は辞書にも載っている正式な日本語になりました。

また、ふつうは「語頭音消失」よりも「語尾音消失」のほうが圧倒的に数が多いです。つまり、1つのことばを縮めて短くするばあいには、ふつう「始めの音を残して、最後の音を削りとる」ことになります。

しかし、「省略」によって「隠語」をつくる場合には、「語尾音消失」よりも「語頭音消失」のほうが多いようです。つまり、「始めの音を削りとって、最後の音を残す」ものがたくさんあります。

これは「語頭音消失」のほうが、一般の人に分かりにくいことばを作ることができるためです。




レトリックの呼び方

呼び方 隠語
呼び方 符牒・符丁


関連レトリック

訛り女房詞新造語法逆さ言葉、省略、外国語、字喩、忌詞、提喩

参考資料

●『センスある日本語表現のために−語感とは何か−(中公新書 1199)』(中村明/中央公論社)
この本が新書だということを考えれば、非常にくわしい解説がされているといえます。
●『新語はこうして作られる〈もっと知りたい!日本語〉』(窪薗晴夫/岩波書店)

たくさんの例があがっているので、読むだけでも参考になるのではないかと思います。個人的には、「キザ」が「気障り」の省略だと初めて知りました。
●『生まれることば死ぬことば』(湯浅茂雄/アリス館)

かなりの量を使って、「隠語」を解説しています。文末が「〜です」「〜ます」となっているので、そこは意見の分かれるところです。私(サイト作成者)は、このサイトを「ですます体」で書いていることからも分かるように、「ですます体」に賛成です。


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