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暗示引用 あんじいんよう allusion
——『ゴーストハント』2巻82ページ(いなだ詩穂・小野不由美/講談社 コミックスなかよし
…初めに 言(ことば)があった
言(ことば)は 神であった
この言(ことば)は 初めに
神とともにあった
光は暗闇のなかで
輝いている
暗闇は
光を理解しなかった——
——『ゴーストハント』2巻82ページ
(いなだ詩穂・小野不由美/講談社 コミックスなかよし


定義重要度

暗示引用は、引用をするときに、出典や作者などを書かない方法をとるレトリックです。つまり「誰の書いた、どの部分からの引用なのか」が、書かれてはいない.。だけれども、多くの人が分かるというものです。


効果

効果1より重みのある表現ができる

この「暗示引用」は、すでに世の中に広まっている言いまわしを使います。そのため、多くのヒトが知っているフレーズが登場することになります。そのため、重みのある権威をもった表現とすることができます、
:権威、重み、貫禄、品位、品格、説得力、客観、有名、名高い
効果2「引用している、いまの状況」と「引用元のシーン」との二重性が出る

「いま、おかれている状況」について、ある「暗示引用」を使ったばあい。「今の状態」と「引用元のシーン」とに、なんらかの共通点があることを示すことができます。
:暗示する、ほのめかす、におわせる、二重・二重性、重なる、重なり合う、ダブる、連想
効果3バカバカしさを出す

もとからある表現に手を加えることによって、バカバカしさを出すことができます。
:模倣、まねる、パスティーシュ
効果4世の中を皮肉った、当てこすりを表現する

いま現在、世の中がかかえている問題。そういったものを、真正面からではなく遠まわしに批判することができます。
:諷刺、当てつける、当てこする、非難、批判、皮肉、アイロニー、軽蔑、嫌味、耳ざわり、気にくわない
効果4もとからあった具体的な先例で、権威をつけることができる

「暗示引用」というのは、もちろん「引用」の一種です。そして「引用」というのは、もとからあったモノゴトを使うものです。その結果、「むかしのヒトだって、こんなふうに言っているんだから…」といった言いまわしができるのです。これはつまり、自分の考えかたにたいする権威づけです。
:例、たとえ、前例、先例、具体例

使い方
使い方1「ことわざ」、「格言」、「決まり文句」といったものを使う

「ことわざ」や「格言」など、すでに使われていて多くのヒトが知っているような成語。そういったものを使うことで、「暗示引用」をつくることができます。そのフレーズがどういった事情から生まれたことが、知られている「故事」とか「箴言」のようになもの。そういったものでも、引用元を明らかにしなければ「暗示引用」となります。
:成句、常套句、決まり文句、慣用句、名言、名句、格言、ことわざ、金言、箴言、故事、成語
使い方2古典となっている作品を引用する

古典となっている文学作品を引用あいたばあいも、「暗示引用」となります。
:古典、和歌、連歌、短歌、本歌取り、俳句、連句、聖書、聖典、仏典、漢詩
使い方3世の中に広まっている言いまわしを借りてくる

「暗示引用」を使うには、よく知られている表現を借りてくることになります。
:借用、借りもの、写しとる、コピー、アリュージョン
使い方4じつは、100%そのまま引用する必要がない

あまり誠実な使いかたでは、ありませんが。「暗示引用」は、引用してきた部分を「 」や“ ”などで明らかにする必要がありません。つまり、「どこからどこまでが、引用してきた文です」と書かなくていいわけです。いいかえれば「暗示引用」は、要点だけにスポットライトを当てて抜き書きすることができるのです。そのため、引用しようとしているヒトにとって、都合がいいことだけを引用する可能性があります。つまり、まっさらの引用文に「ことばなどを加えたり」、または「なかったこととして、引用しないでおこう」ということができてしまうのです。
:加える、つけ加える、水増し、つけ足す、付加、拡大、広げる、拡張、誇張、縮小、縮める、圧縮、取りのぞく、取り去る、除去、排除、省略、要約、はしょる、無視、軽視、軽んじる、黙殺、パロディ

注意

注意1著作権に配慮しなければならない

「暗示引用」は、「どこから引用したのか」「だれが作ったものを引用したのか」といったことを書きません。そのため、著作権を侵害することがありえます。そういえばワイドショーとかで、「槇原敬之VS松本零士」の裁判が話題になったりするのは、この「暗示引用」を使っているためです。なお個人的な意見として、あの裁判は槇原敬之が勝ちます。なぜなら、著作物といえるほどの長い表現を使っていないからです。
:盗作、剽窃、盗用、盗む
注意2知識があることを、見せびらかすことになる

上でも書きましたが。「暗示引用」は、「どこから引用したのか」「だれが作ったものを引用したのか」といったことを、明らかにしません。そのため、あまり有名ではない作品は「暗示引用」にはしないほうが安全です。あまりよく知られていないものを「暗示引用」すると、自分の知識を見せびらかす文になってしまいます。
:衒学的、こざかしい、尊大、ペダンチック
注意3必要以上に、遠まわしにしないほうがいい

この「暗示引用」というレトリック自体が、こみ入った表現方法です。つまり、自分の考えていることをストレートに言わない。「考えていること」と「実際に口や文字で表現すること」という2つのあいだに、「暗示引用」という表現をはさんでいる。そのため、くどくどとした表現になりがちです。
:冗漫、冗長、くどくど、ややこしい、複雑、こみ入った、退屈
注意4もともとの表現を、ゆがめることになる

上にも、ちょっと書きましたが。「暗示引用」は、ダイレクトな引用ではありません。いいかえれば、引用をする側のヒトが、引用をしたいと思っている文に手を加えることができるのです。このことは、たしかに「暗示引用」をつかうばあいのメリットだといえます。けれども、引用する側にとって都合よくしたいために。もともとの表現とは、かけ離れたものになってしまう可能性があります。
:歪曲、ゆがめる、ごまかす、まどわす、いつわる、あざむく、変改、変形、ありのままではない



例文を見る例文を見る(末尾)

で。
例文は『ゴーストハント』2巻から。

主人公は、谷山麻衣。

彼女たちは、「渋谷サイキック・リサーチ(通称SPR)」というグループで活動している。この「SPR」というところでは、依頼人のまわりで起きているフシギな現象を、科学的に調査して解決している。

この「SPR」というグループの所長は、渋谷一也という少年。だから、「『渋谷』サイキック・リサーチ」というグループ名になっているんです。

で、今回は、「ミニー」という人形に霊がとりついてしまった、そのことを解決しようとしている。

それで、「ミニー」にとりついた霊を祓うために呪文を唱えているのが、引用のシーン。呪文を唱えているのは、「ジョン・ブラウン」というエクソシスト。最初のコマに描いてある男の人が、ジョン・ブラウンです。

ここで唱えている言葉。これ、実は、「ヨハネによる福音書」の冒頭部分なのです。
だけれども、原典が何であるかについては、書かれていない。なので「暗示引用」にあたります。



レトリックを深く知る

深く知る1「暗示引用」と、「明示引用」とか「引喩」との特徴

このページで扱っているのは、「暗示引用」です。そしてこの「暗示引用」に似ているレトリック用語として「明示引用」「引喩」というものをあげることができます。

そこで。
この「暗示引用」と、「明示引用」とか「引喩」は。それぞれ、どんな特徴があるのか。それについて、書いていきたいと思います。


「明示引用」がもっている特徴

まず「明示引用」というのは、どんなものなのか。つまり「明示引用」の特徴を、カンタンに言えば。つぎの2つを、あげることができます。
  • 「どの本から生まれたことば」なのかを、引用したときに書いておくことになる。

  • 「だれが生みだした言いまわし」なのかを、引用したときに書き添えておく。
という2つです。


「暗示引用」がもっている特徴

これにたいして「暗示引用」の性質。これは、
  • 「どの本から生まれたことば」なのかを、引用したときに書いておかない。

  • 「だれが生みだした言いまわし」なのかを、引用したときに明らかにしない。

  • でも引用するときには、引用する元になるフレーズを言いかえることはない。
という3つです。このうち上の2つが、さいしょに書いた「明示引用」との違いです。そして3番目に書いたものが、これから下で触れることになる「引喩」との違いということになります。

このページで説明しているのは、この「暗示引用」です。


「引喩」がもっている特徴

さいごに、「引喩」のもっている特徴。これは、
  • 「どの本から生まれたことば」なのかを、引用したときに書いておかない。

  • 「だれが生みだした言いまわし」なのかを、引用したときに明らかにしない。

  • でも引用するときには、引用する元になるフレーズを言いかえるてアレンジを加える。
という3つです。

上に書いた2つは、「暗示引用」の特徴と同じです。この「引喩」で注目することになるのは、3番目の項目に書いてある条件です。

つまり「引喩」は、もともとのフレーズに手を加えることになるのです。つまり、古くからある文をただ引いてくるのではないのです。このことを考えに入れると。ほとんど「パロディ」とか「地口」とかに近いものだということができます


「ぜんぶまとめて」

このように。「暗示引用」「明示引用」「引喩」の3つには、重なりあった部分があります。もちろん、ここまで書いてきたとおり、違いがあるのはたしかです。ですがその特徴は、かなりの部分で同じといえます。

そこで、「暗示引用」「明示引用」「引喩」というの3つをまとめて。「引用法」という名前のレトリック用語を作るのが、ふつうです。

深く知る2「暗示引用」の効果と限界
じつは古い時代には、「暗示引用」が一般的でした。というのは、有名な古い書物や文献についての知識があるのは自然のこととされていたからです。

引用をするということは当然、文章を書いているということです。そして、その文章を書く人というのが、上流のクラスの人に限られていました。そのため、そういった人たちのあいだでは、古典の素養はあって当たりまえだとされていたのです。

そういったわけで、昔は「暗示引用」がふつうでした。

しかし現代では、「明示引用」をすることになっています。つまり、どんな話から引用したかとか、その引用したことは具体的には何に書かれているかとか。そういったことは明らかにしておくのが、常識になっています。言いかえれば、他人の書いた文であるとか、または話した言葉などを「引用」する場合には、出典や書き手をきちんと明示しておくのがエチケットです。

さらにいえば、著作権法という法律があります。この法律でも、そのことが義務づけられています。だれが書いた本からの引用なのかとか、そういったことは書かなければならないことになっています(=氏名表示権)。

ですので、この「暗示引用」のほうは、マナー違反になりかねないレトリックだと言えます。また、もっといえば、著作権法に違反する可能性を秘めていて、法律的に見ると危ないレトリックです。

ですので、「暗示引用」をする文というものは限られてきます。つまり、ずっと昔からある作品だとか、どこから出てきたかわからない「ことわざ」のようなものとか。現代ではそういった、マナーにも法律にも違反しないようなだけが「暗示引用」となることができます。

深く知る3引用するものの知名度

一般的に「暗示引用」をするためには、有名なものを引用する必要があります。というのは、引用する言葉が相手(読者)が知っているものでなくては、引用の効果を十分に発揮することができないからです。

それは、「明示引用」のように「引用」であることが明示されていないためです。だれも知らないようなマイナーな文章、マイナーなことばからの引用では、使いものにならないのです。あくまでも、みんなが知っているからこそ、引用しているのだと分かってもらえるわけです。

中途半端に有名なものを「引用」するのは、逆効果です。ある特定の知識をもったグループにしか通じない「暗示引用」は、よくありません。「暗示引用」で「引用」するものを理解するために、特異なことを知ってなければいけないとするのは避けるべきです。なぜならそれは、仲間うちだけでしか「引用」だと分からないものになってしまうからです。つまり、その「暗示引用」は、イヤミなものになってしまうからです。

深く知る3「暗示引用」という用語
これより下では。
「暗示引用」と、それに近いレトリック用語について書いていきます。このサイトでは、マイナーな「暗示引用」という用語を使っているのです。なので、そこらへんの説明を含めて、書いておきます。


「暗示引用」と「明示引用」

で、まず第1に。
「暗示引用」という名前から、推測できると思いますが。この「暗示引用」とペアになるものとして、「明示引用」というレトリックがあります。

では。
この「暗示引用」と「明示引用」という2つは、どこが違うのかというと。それは、「どこから誰から借りてきた引用」なのかどうかを、明らかにしているかどうか。その点によって、区別されます。

「暗示引用」は、引用したモトを明らかにしない。だけれども「明示引用」では、どこから引用してきたものだか、ハッキリ書いてある。そこで、線引きをします。


「間接話法」と「直接話法」

第2として。
上のものと、ちょっと似たレトリック用語として。「間接話法」というものがあります。そして同じように、ペアとして「直接話法」というものがあります。

この2つについては、学生だったときに英語の授業で勉強した(もしくは、させられた)という記憶があるかもしれません。

ごくカンタンに、「間接話法」と「直接話法」との違いをいえば。
「間接話法」は、“ ”などで囲うことをしないで、引用をした文を使っているヒトによって時制とかを決める。逆に「直接話法」では、引用したものは“ ”でハサんで、どこからどこまで引用したかがすぐにわかる。

このような点が。
この「間接話法」と「直接話法」とでの、そこに大きな違いとなります。


「間接引用」と「直接引用」

さいごの3つめに。
上の2つの、ちょうど中間みたいなレトリック用語として。「間接引用」といったものが、あります。で、コレにも「直接引用」というものが対立しています。では、この「間接引用」と「直接引用」とは、どこで区別をするかというと。「自分の思いを含めて伝えようとしているのか」というポイントで、割りふりをすることになります。

具体的にいえば。「間接引用」は、できるだけ「自分の思い」を含ませるようにするものです。言いかえれば、引用しようとしているヒトのオリジナリティが出るようにするものです。「〈間接〉引用」というレトリック用語に含まれる「間接」ということばは、あくまで「間接」に引用をしているということを意味しています。つまり、引用元の場面・シーンに左右されることなく、新しい内容を盛りこもうとするものです。

これに対して「直接引用」は、なるべく引用することになる文を、モトのもの近いかたち使おうとするものです。つまり、引用することになる文を作ったヒトの考えかた・モノの見かたを尊重するものです。「〈直接〉引用」というネーミングは、なるべく引用元の場面・シーンを〈直接〉引用することになることからつけられているものです。


英語への当てはめ

このような定義をしてみると。たしかに英語では、上に説明した分類に、うまく当てはまります。つまり、
  【英語の場合】

「直接話法」———「直接引用」———「明示引用」

「間接話法」———「間接引用」———「暗示引用」
というふうに、そろえることができます。


日本語への当てはめ

しかしながら。日本語は、これほどスマートにはなりません。つまり、

  【日本語の場合】

「直接話法」…?…「直接引用」———「明示引用」

「間接話法」…?…「間接引用」———「暗示引用」
といったことに、なってしまうのです。


日本語への当てはめが、うまくいかない理由

でもって。
日本語では、このようにズレがおきてしまう。これは、どうしてなのかというと。
日本語では、「直接話法」と「間接話法」とを、キッチリ分けることができない。

そのため、「直接引用」をしようとしているのか、「間接引用」にようとしているのかが、
よくわからない文が、たくさんある。
からです。

もっとくわしくいえば。
日本語では、「直接話法」と「間接話法」とが混ざりあっているのです。区別の難しい文が、しばしばあるのです。

次の例文は、『国語学大辞典』(国語学会[編]/東京堂出版) に書いてあるものです。どことなく、犯罪っぽいかんじのする文です。ですが、これは『国語学大辞典』に載っているものを、そのままを引用したものです。
  • 太郎が私に「君を殺したい」と言った。 (=直接話法)

  • 太郎が私に君を殺したいと言った。  (=間接話法)
この2つの文は、「 」というカッコがあるという以外は同じものです。つまり、同じ単語を使って同じ順序で並べた、ほぼ同じ文のはずです。

なのにもかかわらず。
この2つの文は、あきらかに「異なった内容」を伝えようとするものです。

上の文(=直接話法)で「殺したい」と思っているヒトは、「太郎」です。そして、「殺されそう」になっているのは「君=私」となります。

ですが。
下の文(=間接話法)で「殺したい」と思っているヒトは、こちらも「太郎」です。しかし、「殺されそう」になっているのは「君(≠私)」です。

このように。「直接話法」なのか「間接話法」なのかによって、文の意味が大きく異なります。それにもかかわらず、「直接話法」と「間接話法」との違いは、たんに「 」(カギ括弧)があるだけなのです。もしも話し言葉だったら、誤解を生む可能性が十分にあります。


日本語と「直接話法」と、英語の「直接話法」との違い

そして、問題となるのが。
学生時代に英語の授業で、「直接話法」と「間接話法」とを。中途ハンパに習っている、というところにです。

たしかに。英語では、
  【英語の場合】

「直接話法」——→「直接引用」——→「明示引用」

「間接話法」——→「間接引用」——→「暗示引用」
というふうに、そろえることができます。つまり、「直接話法」であれば「直接引用」になる。「直接引用」をすれば、だいたい「明示引用」というカタチをとる。なので英語では、「直接話法」と「間接話法」という2つのレトリック用語があれば、十分なわけです。

しかしながら。日本語では、英語のようにはスッキリと分けることができないのです。つまり、
  【日本語の場合】

「直接話法」…?…「直接引用」———「明示引用」

「間接話法」…?…「間接引用」———「暗示引用」
といったことに、なってしまうのです。

たしかに日本語でも、「直接引用」するものは、たいてい「明示引用」になります。逆に、「間接引用」をしたものは、おおむね「暗示引用」となります。

ですが、日本語では。
「直接引用」をするために、かならずしも「直接話法」を採用することになるとは限りません。また「間接引用」をすると、「間接話法」でもって表現することになるとは言い切れません。

なぜ、言い切れないのか。
それは上にも書いたように、日本語では「直接話法」と「間接話法」との境界がボヤけているからです。


そこで、誤解が生まれてしまう

そして。ここで、大きな問題が出てきます。
英語で、「直接話法」という専門用語を学んだヒト。そんなヒトのなかには、「直接話法」なのだから「直接引用」を使うことになる、と思ってしまうばあいがあるのです。

たしかに。英語では、その考えかたは正しく当てはまります。
つまり「直接引用」は、なるべく引用することになる文を、モトのもの近いかたち使おうとするものです。そのためには、引用したものは“ ”でハサんで、どこからどこまで引用したかがすぐにわかるようにする。そういった文をつくるために、「直接話法」が採用される。

この説明は、英語の文を読み書きする限りでは、正しい理論です。たしかに英語では、問題がありません。

ですが。日本語に当てはめようとすると、トラブルを引き起こしてしまうのです。

引用する文をはじめて作ったヒトの考えかたに、なるべく沿うようにする。つまり、「直接引用」する。そこまでは、いちおう当たっています。ですがそこで、「直接引用」をするためには「直接話法」を使えばよいと考えてしまうこと。これが、大きな間違いをひきおこすのです。

なぜなら。
日本語では「直接話法」と「間接話法」とが、ハッキリと分かれていないからです。さっき上で「太郎を殺す」とかいう例文でも見ましたが。あの例文が、日本語では「直接話法」と「間接話法」とを分けることが難しいという証拠です。

ようするに、いままで書いてきたことをまとめると。
英語では、「直接引用」=「直接話法」ということができる。けれども日本語では、「直接引用」≠「直接話法」なのです。

ですが。
英語の授業で、ガッチリ教えこまれてしまったために。
「直接引用」をするためには、「直接話法」を使いなさい。
という理論が、アタマの中でできあがっているヒトがいるのです。たしかに、その「直接引用」=「直接話法」という考えかた。それは、英語(とかのヨーロッパのことば)には当てはまるものです。けれども、その考えかたは日本語では通用しないのです。


以上をふまえた上での結論

で。
これまで書いてきたような誤解を、生みださないために。このサイトでは、「直接引用」とか「間接引用」といったレトリック用語は使わないことにします。そして、かわりに「明示引用」と「暗示引用」という用語を使うことにします。



レトリックの呼び方

呼び方5 間接引用
使い方1 暗示引用



関連レトリック

引用法明示引用引喩パロディ、パスティーシュ、本歌取り

参考資料

●『日本語の引用(日本語研究叢書第2期第2巻)』(鎌田修/ひつじ書房)

この「暗示引用」のページをつくるにとき、いちばん参考になった本です。「間接引用」(≒暗示引用)と、「直接引用」(≒明示引用)との区別については、主にこの本を参考にしました。
●『うまい!日本語を書く12の技術(生活人新書079)』(野内良三/NHK出版)

上に書いた本は、「引用」というレトリックを学問として研究しているものです。それに対して、この2番目の本は、「暗示引用」について実用的なことが書いてある本です。
●『引用の想像力』(宇波彰/冬樹社)

たぶん、日本で出版されている本のうち。いちばん「間接引用」(≒暗示引用)について、くわしく書かれているものだと思います。ただし、とても難しい本です。もし、「引用」に関連したレトリックを知りたいのだったとしても。まったくの初心者が、さいしょに読むような本ではありません。



上にも使い方1と書いたように。「明示引用」とか「暗示引用」とかいったレトリック用語は、ほとん使われないものです。

たいていのばあい、「直接引用」と「間接引用」といった用語を使います。ですが、このサイトではあえて、「明示引用」とか「暗示引用とかいった用語を使うことにしました。


ふつう「暗示引用」といったばあい

たしかに、
  • 『レトリック事典』(佐藤信夫[企画・構成]、佐々木健一[監修]、佐藤信夫・佐々木健一・松尾大[執筆]/大修館書店)
などでは、「暗示引用」というレトリック用語を使っています。ですが、上に書いた2つの本で解説している「暗示引用」は、「引喩・暗示的言及」に近い意味のものに当てられています。

つまり。
たんに引用してくるだけではなく、そこに何かアレンジをしているもの。それを「暗示引用」としています。ですので、このサイトの定義からに当てはめるのは、かなり苦しいといわざるをえません。

では、このサイトの「暗示引用」というレトリック用語は?
では。
「明示引用」というレトリック用語。これを、このサイトで使っているのと同じ意味で扱っているのは、
  • 『日本語レトリックの体系—文体のなかにある表現技法のひろがり—』(中村明/岩波書店)
だけではないか思います。具体的に、その部分を引用してみると、
[明示引用 めいじいんよう]
〔多重〕の原理に立つ文彩である《●引用法》の一種。
引用の範囲や作者・出典などを明記して、はっきり引用とわかるような形で引用する修辞技法。
と書いてあります。

で。
コレに対する「暗示引用」の定義を、このサイトと同じように使っているもの。そのような本としては、
  • 『わざとらしさのレトリック—言述のすがた—(講談社学術文庫1150)』(佐藤信夫/講談社
があげられます。こちらも、引用してみると
伝統的なレトリック理論の中に、アリュージョンまたは《暗示引用》という用語がある。ひろい意味では、それは引用の一種だけれど、せまい意味では《引用》に対立する。古来、引用には出典を明示するのがエチケットだろうが、アリュージョンは、表現を借りておきながら、貸し主を明示しない。無断で借りた上に、ときには借りたものに手を加えて変形してしまうこともあって、[...以下略]
とあります。よく読むとわかるのですが、
せまい意味の「暗示引用」
「なんという本から引用したか」と「だれの書いたものを引用したのか」とが、きちんと書かれていないもの。

ひろい意味の「暗示引用」
「なんという本から引用したか」と「だれの書いたものを引用したのか」とが、きちんと書かれていないもの。というのにプラスして、引用したヒトが引用文になにか手を加えているもの。
というったかんじに、まとめることができます。

そして。
このサイトでは、上の[せまい意味の「暗示引用」]をことを「暗示引用」と位置づけています。

なお。
『レトリック認識(講談社学術文庫 1043)』(佐藤信夫/講談社)にも、これに似た解説がのっています。

といったかんじで。
このサイトと同じ意味で「明示引用」ないし「暗示引用」という用語を使っているものは、ほとんどみつけることができません。ですがこのサイトでは、あえて「明示引用」・「暗示引用」というレトリック用語を採用します。


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